2014年10月20日月曜日

もう泣かないで



 きみが泣いたとき
 ぼくが笑ったのは
 泣くなんて笑うべきだと
 きみに伝えたかった。
 ぼくは強くならざるをえなかったから、
 それに、
 きみが泣きやむには
 笑って見せるしかなかった。
 いっしょに泣けば、
 ぼくたちは共に不幸だったかもしれない。
 きみは泣いてくれた
 ぼくが泣いているときに。
 その後、
 ぼくは朗らかにわらった。




(姪ちゃん)

2014年10月18日土曜日

一番高い塔のうた  ランボー、私訳

 

 若い暇な日よ
 完全に隷属した、
 繊細さによって
 ぼくは人生を失った。
 ああ時よ来い、
 惚れ込むような時よ。

 放っといてくれと自分に言った、
 そして誰もきみを見なかった、
 そして彼女に何も約束しなかった、
 一番の悦びも。
 誰もきみを止めはしない、
 ごたいそうな引退と年金生活。

 ぼくはすごく我慢した
 忘れられないほどに
 疑いと傷み、
 空もその一部だった。
 不健全な渇き、
 ぼくの静脈を黒く濁らせて。

 草原のような、
 お仕着せの忘却のなか、
 大きくなり花咲く
 香りと毒麦が、
 止めようのない羽音、
 百匹もの汚い虫たちの。

 ああ、千のやもめ暮らし
 かくも貧しい魂の、
 イメージしか持たない
 ノートルダムの!
 彼ら彼女らは
 処女マリアに祈るのか?

若い暇な日よ
完全に隷属した、
繊細さによって
ぼくは人生を失った。
ああ時よ来い、
惚れ込むような時よ。



2014年10月7日火曜日

シェブ=ハスニ、愛を唱う勇気。


シェブ=ハスニは愛の歌をたくさん歌ったという。
 アルジェリアの人が言っていた、「我々がどういうふうに愛を表現していいか、恥ずかしくてできなかったときにハスニが教えてくれた、」と。
 人を愛するのはすごく勇気がいること、恥ずかしくてなかなかできないこと、いつしかぼくも勇気を失って顔の見えない文章ばかり書くようになっていた。どんなにアラゴンのように、素晴らしい詩を書けたとしても、アラゴンはそれを手で書いて朗読もしたのに、パソコンで打って、メールで送るのは便利で寂しい、というしかない。
 メールで簡易に口説いて、メールで簡易に別れたり、そういう時代かもしれない、ある部分では。だけど、それって、すごくシェブ=ハスニの歌に反しているのではないか、と思った。一瞬でも、アルジェリア人は恋愛が恥ずかしいんだ、ウブなんだなと思った自分が実は、メール・ツールで勇気を失った隠微な人間に過ぎなかったのだ。
 メールで口説くと相手がいないので、自己完結して、体の触れ合いも何もない。ひどく禁欲的で、でも隠微で、地味な犯罪に近い。One day I sneaked to find your e-mail address…罪を償うことは、相手に赦してもらうことではなく、自分が誰に対しても二度と同じ過ちを繰り返さないことだ。
 今日、子どもたちが無言メールを送り合っている様子というのを聞いて、大人たちはもっと隠微に何かしてないか猛烈に迫ってきて、我が身を反省した。
 ぼくもシェブ=ハスニのように面と向かって誰かを口説けるような勇気を持てるだろうか。

ハスニは、テロリストに呼び止められて、銃弾を撃ち込まれた。そのテロリストの愛する勇気のなさ、臆病さがぼくには何だか寒々しいのだ。



2014年10月1日水曜日

ルイ・アラゴン 幸福な愛はない(終節) 田中淳一・訳

苦しみのつきまとわない愛はない
心に傷を残さぬ愛はない
心に烙印を残さぬ愛はない
きみへの愛も祖国への愛も同じこと
涙を糧に生きていない愛はない
     幸福な愛はこの世にはない
     だがそれがぼくら二人の愛なのだ

ルイ・アラゴン
幸福な愛はない(終節)
田中淳一・訳


Il n’a pas d’amour qui ne soit à douleur
Il n’a pas d’amour dont on ne soit meurtri
Il n’a pas d’amour dont one ne soit flétri
Et pas plus que de toi l’amour de la patrie
Il n’a pas d’amour qui ne vive de pleurs
Il n’a pas d’amour heurueux
Mais c’est notre amour à tous deux

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