2013年11月14日木曜日

根府川の詩、二篇。

「沙羅の木」 森鴎外

褐色[かちいろ]の根府川石に
白き花はたと落ちたり
ありとしも靑葉がくれに
見えざりしさらの木の花。




「根府川の海」茨木のり子

 根府川東海道の小駅
 赤いカンナの咲いている駅
 たっぷり栄養のある
 大きな花の向こうに
 いつもまっさおな海がひろがっていた

 中尉との恋の話をきかされながら
 友と二人ここを通ったことがあった

 あふれるような青春を
 リュックにつめこみ
 動員令をポケットに
 ゆられていったこともある

 燃えさかる東京をあとに
 ネーブルの花の白かったふるさとへ
 たどりつくときも
 あなたは在った

 丈高いカンナの花よ
 おだやかな相模の海よ

 沖に光る波のひとひら
 ああそんなかがやきに似た十代の歳月
 風船のように消えた
 無知で純粋、徒労だった歳月
 うしなわれたたった一つの海賊箱

 ほっそりと
 蒼く
 国をだきしめて
 眉をあげていた
 菜ッパ服時代の小さいあたしを
 根府川の海よ
 忘れはしないだろう?

 女の年輪をましながら
 ふたたび私は通過する
 あれから八年
 ひたすらに不敵なこころを育て

 海よ

 あなたのように
 あらぬ方を眺めながらー。

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